麻痺手を考える

 前回まで運動の量でなく運動の質を改善すべきとお話しをしてきました。運動の質を変化させていくためには、重心を制御する中枢である脊柱の機能が重要となります。また脊柱の動きは下肢であれば股関節の動きと連動してきます。前回上肢麻痺の例を出しましたが、上肢であれば肩甲骨から脊柱へ動きが波及していきます。手の回復は一般的には不良とお伝えしましたが、指が動くことと同じくらい上肢の肩甲骨を自身でコントロールできることは重要なのです。逆をいえば肩甲骨のコントロールが自身でできれば、麻痺した上肢がバランスに関与しだして、麻痺した手にも力が入りやすくなるはずです。

このように麻痺した上肢には継続した治療が必要と理解できるはずです。そして前回、手の治療として握力をつけたり硬くならない様に曲げ伸ばしをすることが正しいとは言えないと申し上げました。本来、手というのは非常に感覚に優れた場所になります。寝ている状態から起きるのを想像してください。体を起こそうとする瞬間に手のひらは床面を向き、上体を起こすのを助けてくれるはずです。これを構えと表現しますが、どの動作の前にもその動作を効率よく達成するための構えが必要となります。ちなみに効率よくとは運動にバラエティ性があると言い換えられます。

すなわち手というのは運動の初動を担っているということですね。これが麻痺などにより阻害されるとどういったことになるでしょうか。本来は手という運動の一番遠い場所から体の近い場所へ運動が波及してくるのですが、体の近い場所から手の方に運動が遠ざかっていくのです。体の近い場所の関節というのが上肢でいうと肩関節であり、下肢でいうと股関節にあたります。両関節ともに可動範囲が大きい関節となるため、初動として角度がまず規定されてしまうと、末梢の関節は単一的な動きしか出来なくなってしまいます。これが運動のバラエティをなくしてしまう原因です。

運動が単一的であれば運動を制御する必要がありません。まさに機械的な運動となります。同じ関節に繰り返し同じようなストレスが加わることになります。また関節の状態や手の精密な感覚などは単一的な運動ですと、動きを処理する脳にも必要ない情報となりますので、脳の手に対する認識はますます弱まっていきます。よって更に悪循環的に手の機能的な回復は制限されてしまいます。

 具体的な手の治療に関して次回のブログでご案内しながら、運動の質の構成要素である感覚入力に関してお話しを進めていきます。

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