生涯発達の視点を持つ

昨今、加齢によるネガティブなニュースばかりが目につきます。加齢に伴って筋力はもとより視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感に加えて平衡感覚,運動能力や免疫能など幅広く身体機能の低下が生じると言われています。このような面から、誕生から成熟に至る変化が肯定的に発達と言及されているのに対し、成人から死に至るまでの変化は否定的に老化と呼ばれています。

このような「loss」を否定的に捉えるだけでいいのでしょうか?実はこのような形の「loss」は幼少期にも神経細胞の消失(神経ネットワークの取捨選択)という形で起こっています。こうした「loss」の認識を変えようと、生涯を通じて発達本来の在り方を考える生涯発達心理学の立場から、「生涯発達における概念」が統合されました。生涯発達理論は、いかなる種の行動も複雑であり、増加する一方の成長のように単純に効率良い動きのものではなく、むしろ、生涯発達とは「gain」と「loss」が協調することによって成し遂げられるということを強調しています。発達には多面性があり、筋力や感覚などの機能面など成長の単一の基準によって発達の概念は定義できないということです。真に発達を理解するには、多くの異なった領域を考慮することが必要です。生涯のあらゆる段階において、発達する能力や技能があれば、ほかに退行するものもある、さらには、個人が生活環境に適応すること以外には、特にゴールは定めていないというのが障害発達の考え方です。個人個人で生きる上での必要な要素は異なるということですね。

単純な例でテニスプレイヤーについて考えてみると肉体的に優れ、敏捷性に富んでいる若いプレイヤーは注目されがちだが、年長のプレイヤーは肉体的には劣っても、戦略の知識の上では若いプレイヤーよりも優れているということも事実です。この単純な例を人生100年戦略にも当てはめていきます。

人間は感覚と知覚を追い求め,環境の状況を知って,初めてその環境に適した行動をとることができるものであるというのは、人間の年を重ねても変わらない普遍的で大事な要素です。

テレビ番組「プロフェッショナル」にて青森県の菓子職人、桑田ミサオさんについて放映されておりました。その桑田さんは93歳で餅作りはあんこと米粉を練り混ぜるのみとシンプル。手袋をしないことで、素材のちょっとした異変が分かるといい、桑田さんは「10本指は黄金の山、母からいただいた宝物」と話しています。まさに生涯発達の発達する能力や技能があれば、ほかに退行するものもあるという当たり前のことを気づかせてくれました。

「loss」は「gain」を生み出す要素の一つです。アンチエイジング(抗加齢)などという言葉は捨てて、プロエイジング(加齢適応)という言葉に変えていきましょう!

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