痛みが身体のどこかに発生した場合、どのように思考を巡らせ解決への糸口としていくべきでしょうか?医療従事者の思考過程を知ることは、クライアントにとっても有益ではないかということで、今回ブログにしてみました。
まず身体全体からみた障害の形成過程の推察を行うには、個々から全体を捉える 還元論とともに、全体から個々を捉える全体論を加えた仮説検証を行 うことが必要です。
1)還元論と全体論
① 還元論(René Descartes;1596~1650)
物事の全体は個々の集合によって成り立っており、個々を理解することで全体を 把握し理解することにつながるという考え方である。物事にはそれを構成する要素 が多種多様であり、さらにそれらが複雑な関係を有している。そのため、一つの物 事を理解するために各要素を一つ一つに分解し、それらを個別に分析することで複 雑に絡み合った関係や物事の性質、構造を解釈していくことが還元論的思考である。
② 全体論(Willard van Orman Quine;1908~2000)
物事の全体は一つであり、そこから分解された個々は異なる性質を持つ。全体は 個々の集合体であるが、全体は個々の総和以上の性質を有している。つまり、個々 だけの理解では全体を理解したことにはならないという考え方である。物事は全体 的な構造を持って存在し、多種多様な要素は全体構造の一部を担うパーツであると 捉えられる。そのため、各パーツに分解したところで全体構造は見えてこない。全 体の構造や機能が理解された上で、各パーツの意味を解釈していくことが全体論的 思考である。
例えば、木の葉の一部が病気になり変色したとする。葉自体に問題があると考え、 変色した葉に対して薬をかけることや葉を切り取るなどの対処を行い、悪くなった ところが良くなればこの木は元気になったと考えるのが還元論的思考である。これ に対し、木の葉が変色したのは葉の問題だけではなく、周囲の葉や枝、幹、根、ひ いては土壌にまで原因があると考え、これらに対する対処を行うことが全体論的思 考である(図Ⅰ-1)。
これを医療の現場に置き換えてみると、筋力が低下しているから筋力トレーニン グ、関節可動域(Range of Motion、以下ROM)が低下しているからROMトレー ニングを行うことが還元論にあたります。一方、患部の痛みや機能障害は結果で あり、その結果が生じたのはなぜかを考え、他部位の機能や姿勢、さらには生活習 慣・生活環境までを含め、広い視野で原因仮説を立てて対処することが全体論となります。
心身調律サロン 坊では特にこの全体論に特化していき、痛みなどの障害の改善をクライアントとともに図っていきます。交通事故後の外傷や患部の術後などでは、特定部位の障害として還元論で対処可能かと思います。しかし慢性疼痛を含めた不定愁訴などはある意味、その方特有の個性とも表現でき、全体論での対処が必要であると考えています。
今後再生医療やロボット技術の発展などにより、さらに還元論を用いた技術の向上が図られてくるかと思いますが、還元論を用いた治療を行なった際にも、やはり最後には障害部位を身体全体へ統合させていくプロセスが必要になります。障害部位のみの治療では完結しえないのです。
全体論での考え方は生き方にも応用可能です。歳を重ねると加齢的変化は否応なしに向かってきますが、そのような変化の中に合わせ、個々の装いも変わっていくのは当然です。人それぞれ人生に対する向き合い方が異なりますため、その方々にあった人生のビジョンに近づけるよう、お手伝いさせていただきます。
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